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東京地方裁判所 昭和59年(タ)178号 判決 1985年6月28日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告と被告とを離婚する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告と被告は、昭和一二年二月一日婚姻の届出を了した夫婦である。

2  原告は、昭和一七年一一月から南方に従軍し、昭和二一年五月帰還して被告の許に戻つた。

被告は、原告が南方に従軍している間、軍の赤羽工兵隊の将校に原、被告の自宅の二階を賃貸し、右将校と不貞の関係に至つた。

3  右被告の不貞が原告の知るところとなり夫婦仲の円満を欠くことが続き、原告は、昭和二四年四月被告と別居した。その直後、被告は、原告所有の土地、建物を処分し、その金員を持つて被告の実兄A男方に居を移した。

4  原告は、昭和二四年ころ、東京家庭裁判所に夫婦関係調整の調停を申立てたが不成立となり、東京地方裁判所に離婚の訴を提起したが、原告は敗訴した。

5  被告は、その後所在不明が続いたが、調査の結果ようやく判明し、原告は、昭和五六年ころ東京家庭裁判所に再び夫婦関係調整の調停を申立てたがそのときも不成立となつてそのままにしていた。

6  原告と被告は昭和二四年四月の別居以来三〇有余年全く夫婦としての交流はなく、また、昭和二九年二月の前記判決以来全くの音信もなく、被告から何の要求のないまま推移してきた。

このように、もはや夫婦としての実態は全くなく、単に戸籍上のみの形骸化した夫婦にすぎない。

そこで、原告は、昭和五八年一二月東京家庭裁判所に調停を申立てたが、被告は高額の金員を要求するのみで右調停は不調に終わつた。

7  以上のとおり、原、被告間の婚姻関係は戸籍上のみの婚姻で全く実態のないものであり、もはや婚姻を継続し難い重大な事由があるといわなければならない。よつて、原告は、被告に対し、民法七七〇条一項五号に基づき離婚を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実中、南方への従軍及び帰還の時期は認め、その余の事実は否認する。

3  同3の事実中、昭和二四年七月(同年四月ではない)に別居し、被告が原告所有の土地建物を処分した後実兄A男方に転居したことは認め、その余の事実は否認する。

4  同4の事実は認める。

5  同5の事実中、原告が昭和五四年(昭和五六年ではない)調停を申立てたが不成立となつたことは認め、その余の事実は否認する。

6  同6の事実中、原告が昭和五八年一二月調停を申立てたが不調となつたことは認め、その余の事実は否認する。

7  同7の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告と被告の別居は、原告が被告に対して訴求した東京地方裁判所昭和二六年(タ)第四二号事件の判決が認定したとおり、原告の不貞行為と原告による被告に対する遺棄によつて生じたものであることは明らかである。しかも、原告は昭和二四年七月の別居以来今日まで慰謝料はもとより生活費さえ支給せず、その間被告に対し金員等の引渡請求訴訟(昭和二五年、原告敗訴)、前記離婚請求訴訟をそれぞれ提起し、被告に耐え難い精神的苦痛を与え続け、一方で、昭和二五年九月一日、丙野月子を自己の父親である甲野太郎の養子となすことにより同女を甲野月子と改氏せしめ、その後も同女と同棲を継続し、同女との間に二子を設けて認知するなどしている。

2  原告によるその後二度にわたる離婚調停申立て及び本訴提起は、過去三五年間の婚姻費用分担義務も履行せず、財産分与、慰藉料の提供もないままになされており、直近の離婚調停においても、現金一〇〇万円と油絵一枚を提案したにすぎなかつた。

3  以上によれば、原告の本訴請求は正義に反すること著しいので、すみやかに棄却されるべきである。

第三  証拠(省略)

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